タンパク質寿命が制御するシン・バイオロジー

Shin-biology regulated by protein lifetime
文部科学省 科学研究費補助金 学術変革領域研究(A) 令和5年〜9年度

Overview

プロテオームワイドに「タンパク質の寿命はどのように決定されているのか」を理解することが、生命現象のシン(真・新・深)の理解には不可欠である。

タンパク質は生命体を構成する必須の機能素子であり、細胞・組織は数千から数万種類に及ぶタンパク質のセットと存在量(プロテオーム)により機能が形作られています。タンパク質は遺伝子情報に基づいて合成されますが、mRNA量・翻訳量とタンパク質量との相関は低く、翻訳後制御、とくにタンパク質分解による制御が重要であることが知られています。個々のタンパク質は数分から数年と千差万別の寿命を持ちます。これまで、タンパク質寿命を決定する法則がいくつか提唱されてきましたが、一部のタンパク質の寿命を説明できるものの、ほとんどのタンパク質の寿命は理解できず、タンパク質は形作られた後にどのように寿命が決定されるのか、その仕組みは未だ明らかではありません。また、重要な生命現象における個別タンパク質の寿命制御については深く掘り下げられてきましたが、これらはタンパク質動態のごく限られた一局面を観察しているに過ぎません。細胞が機能を大きく変容させるときなどには、タンパク質の構成を大幅に作り替える必要があります。この際のタンパク質合成の変動とともに、タンパク質分解もダイナミックに変動しています。しかし、様々な生命現象や病態によって、時間軸を伴った選択的かつ大規模なタンパク質分解が生じる機構は不明です。

これらの謎を解明するため、タンパク質寿命を制御する新しい基本原理を探求するとともに、高深度にタンパク質寿命を測定する技術を確立し、様々な生理的・病理的環境下において大規模なタンパク質構成変容を駆動するタンパク質寿命制御機構を明らかにします。また、タンパク質の配列情報、翻訳後修飾情報、予測立体構造を統合することにより、タンパク質寿命を制御する要素を探究します。さらに、タンパク質寿命を自在に制御する新技術を創出し、細胞・組織機能や病態を操作する手法を確立します。以上のように、本領域ではタンパク質分解、分析化学、情報科学、化学生物学などの研究者を結集し、タンパク質寿命の仕組みを「識る」、「測る」、「操る」ことにより「タンパク質寿命が制御するシン・バイオロジー」を目指し、生命現象・病態のシン(新/真/深)の理解を目指します。